ヘアドネーションについて、支援いただいている方、お客さまから受ける質問をまつわるよくある質問を、ウィッグ採寸からフィッティングまで対応する美容師として、ちょっとマニアックになりますが、お答えさせていただいております。
1. 髪の毛の加工はどのようにするの？
ウイッグを製作するのに原料になる人毛（ 髪の毛 ）は、まず 原毛処理 を行います。 原毛処理というのはウイッグに結ぶ髪の毛の下地を作る作業になります。 健康で元気なハリのある髪の毛は弾力があるので、髪の毛を輪状にして結ぶと結び目が解けてしまいます。 そのため、表面のキューティクルを薬剤で溶解し（ スマイルプロジェクトでお願いしている工場ではアンモニア及び次亜塩素酸ナトリウムを使用しています ）均整させて必要なものは染色（ カラーリング ）をし最後にコーティング剤を表面に塗布します。
また、人の髪の毛に存在するキューティクルは、全ての髪の毛が根元から毛先に向かったうろこ状になっています。 ウィッグにする１本の髪の毛を真ん中で結んで、自然に左右対称におろしたとすると、毛束の左右ではキューティクルの向きが逆さになってしまいます。 そのため、全くキューティクル処理を行わずコーティングのみで植毛処理を施してしまうと、植え方によってはキューティクルの毛流がウィッグ全体ごちゃごちゃになってしまうので、コーティングが落ちてきた後は、ブラッシングなどで不都合が起こりやすくなるため、表面の薬剤加工技術・処理方法はウィッグ作りの重要なポイントになります。
2. ヘアドネーションできる髪の毛の長さについて
ヘアドネーションいただいた髪の毛を、手植えウィッグ用にリデュースするには、３０.４８㎝（ １２インチ / ３１㎝ ）以上の長さが一般的に必要とされています。 ドネーションされる前の髪型は支援者さまそれぞれですし、括った髪の毛束が全部３１㎝なくても、毛束１束でも２束でも前髪だけでも、床に落ちた髪の毛でも、ドネーションいただくこには全く問題はありません。
手植えで髪の毛を頭型のネットに植える際、髪の毛を２等分（ 半分 ）にして、指に挟むようにして、結んでいきます。 上部の写真は髪の毛の代わりに赤い糸１５㎝ / 青い糸３０㎝を用意して結んでいる状況です。 糸１５㎝を２等分にして結んでみると… 以外に短いんです。手中の遊びが全くないので結んでいるうちに、髪の毛が手から逃げやすくなってしまいます。 次に青い糸３０㎝で結ぶと大分手持ちの遊びに余裕があり大分結びやすくなります。 職人さんによってスキルや見解は違うと思いますが、手植えするウイッグ には１５㎝毛髪は不可能です。
そして、人工毛（ ファイバー毛 ）に比べ人毛はブラッシングで抜けやすいため、短い髪の毛になればなるほど職人さんは髪の毛を１：１の長さ（ 半分の長さ ）で結んでいきます。 そのため、３０㎝の髪の毛を植えたとしても１５㎝の仕上がり毛長になるということになりますよね。 そのため、短い髪の毛をウィッグ用として上手に使うには ショートスタイルの襟足 ウィッグぼうしなど下の写真のようなミシン縫い で加工すれはリデュースが可能ということになります。
スマイルプロジェクトでもウィッグ用として工場に送ったヘアドネーションの中に含まれる短い髪の毛や加工の難しい資材につきましては 襟足の部分的なパーツ 部分ウィッグのパーツ 地肌に貼り付ける男性用のウィッグ 美容師が使うカラーをチェックする毛束などに流用させていただいております。
3. 寄付できる髪の毛の条件について
髪の毛をウィッグの資材として加工する際、以下の工程を行います
１. キューティクル部・髪の毛表面の加工 ～ 髪のキューティクル部（ 表面 ）を処理します。 この処理には、染色やコーティングの前処理として、髪の毛をネットに結びやすくするための処理が含まれます。
2. 染色 ( カラーリング ) ～ 髪の毛を希望の色に染めます。 染色により、髪の色を変えることができます。
3. 表面のコーティング処理 ～ 髪の毛の表面に保護コーティングを施します。 これにより、ウィッグとして使用する際に髪の毛が保護され、より長持ちします。 上記の工程において、以下のような髪の状態でもヘアドネーションが可能です
- 白髪
- くせ毛
- 太い毛 / 細い毛
- パーマ＋カラーリングをした髪の毛
- 傷んでいる髪の毛
- 枝毛
ただし、過度なブリーチ（ 髪を漂白する処理 ）を繰り返した髪の毛など、アンモニアや次亜塩素酸ナトリウムといった髪の毛表面の加工処理剤によって断毛してしまうような髪の毛は、資材としてはじかれる可能性があります。 このような場合、ウィッグの資材としては使用できないことがあります。
一般的に知られている髪の毛を植える工場とは別に、たくさんの髪の毛の加工を専門とする「髪の毛屋さん」があります。 工場にまとまって髪の毛が納品する前には、原毛となる髪の毛は弾力性があるので、結構きつめに結んだとしても、ほどけてしまいまい、ウィッグのネットから脱毛しやすくなってしまいます。 そのため、ミシンで縫製するウィッグを除いては、髪の毛の表面の加工は基本的に必須となります。
4. 資材になる人毛について
人毛のマーケットは中国が独占しています。 欧米・南米・アフリカの方の髪の毛は、特有のクセがあるため加工を施す原毛処理に手数が必要なので、ストレートで硬いアジア人毛は艶もあり大変綺麗ですし、ウィッグに適していたため、人毛のマーケットとしてアジアでは広がりやすかったことが挙げられます。 また、中国の山間部等では髪の毛を売って生活している方たちも未だおられます。 それも、世界の人毛マーケットが中国にあることの要因になっているのではないかと考えます。
長年ウィッグを扱っていると、近年髪質（ 原毛質 ）が変わってきたのを実感します。 理美容師さんはカットウィッグなどで加工された人毛を扱われることが多いため、髪の毛が昔に比べ変化していることも既にご存じかと思います。 日本でも過去は人毛を加工する職人さんがいらっしゃいましたが、経済成長に伴い原毛加工作業は当時安価だった韓国へ、さらに中国へと移っていき、現在は北朝鮮にもネットワークがあります。 経済成長に伴い、子どもたちも手足は長くなり、顔も小さくなって、スタイルも良いですよね。 同じように、髪の毛にも常に変化していて 色が明るく 柔らかく 部分的にクセがあったり また 襟足が高かったり もみあげが短かったり 髪の毛の生えている面積も狭くなってきている感じも否めません。 確実に太くて硬い原毛が減少してクセが加わってきたりしている原毛の質の変化に伴って原毛の価格も１０年前と比較すると現在は １０倍以上 に跳ね上がっています。 そのため皆さまからご寄付いただける髪の毛は長さ・髪質など問わず大変ありがたいとても重要なものなのです。
現在、中国で取引のある工場や髪の毛屋さんに流通する髪の毛には中国、インド、北朝鮮、フィリピン、ミヤンマー毛などを目にします。 最良の質のいい髪の毛を バージン毛 / 良質の髪の毛を レミー毛 / 加工が必要な髪の毛を 通常毛 として流通させているのが確認できます。 バージン毛につきましてはレミー毛の２倍の値段がついていて、通常なかなか触ることができない鋼のようなキューティクルを持つ中国毛です。
5. 何人分のヘアドネーションでウィッグができる？
ウィッグを製作するにも あまり異なる髪質を混合することはしません 、おおよそ同じ強度、同じ太さ、同じ長さのものに仕分けけされ製作されます。 頭頂部の髪の毛 襟足の髪の毛 部位によって毛長が異なりるので、たくさんの仕訳けられた髪の毛で製作していくこととなります。 そのためヘアドネーション頂ける方の 毛量 長さ 色 髪質 太さ 全て異なりまし「何名の髪の毛でウィッグができます！」とバシッと言い切るのはちょっと難しいということですがイメージをお伝えできれば思います。
例えば上の写真左にある151ｇのウィッグ、鎖骨につくかつかないかぐらいのミディアムレングスのウィッグです。 工場への指示書には「 40㎝の人毛を1：2の位置で結んで 」と依頼したものです。 ４０㎝（1：2 ≒ 13.3㎝：26.6㎝） のレイヤーウィッグです。
ウィッグのインナーネットを８ｇとして、ウィッグには１４３ｇ の人毛が植えられていることになります。 ギリギリ４０cmのヘアドネーションは、毛先がバラバラで全体が４０cmある訳ではないので、毛束のおおよそ１０～２０％が４０cmを超えていることとなり、９３ｇ 中１０～２０％間を取り１５％とした１３.９ｇ が40ｃｍある資材と仮定すると、おおよそ同じような髪質の方１０人分 あったとすると、ウィッグ1つ作られているというざっくりとした計算になります。
カット（ヘアドネーション）する前、髪の毛はどうしたらいい？
理美容室では髪の毛は乾いた状態からゴムで括っていきます。 アウトバストリートメント ヘアオイルなど髪の毛を括るのに遜色がない整髪料は付着していて問題ありません。 ジェル ハードムース・ワックス 固めるスプレーなど、髪の毛を細かく括る作業に支障があるような整髪料がついている場合一度シャンプー＋ドライしてからの作業になりますのでヘアドネーションで理美容室に行く前には使わないようにしてください。 また、髪の毛は濡れていると状況によっては菌が繁殖してカビが生える可能性 があります。そのため、髪の毛はできるだけ完全に乾いた状態で訪店していただければと思います。